1940年代のドイツ・ミュンヘン、マルテンス博士とその共同研究者であるヘルベルト・フンク博士は、現在では有名なエアクッションソールを発明しました。
このエアクッションソールを用いた靴の製造権を獲得したイギリスのR.グリッグス社。彼らは、製造権こそ獲得したもののその技術自体は有しておらず、このソールを使用した靴を生産できるファクトリーを探していました。
そして1959年、NPS社(SOLOVAIR)がエアクッションソールを採用したサンプルブーツをグリッグス社向けに製作します。こうして誕生したのが、現在では象徴的な存在となっているDr.Martens Bootでした。
その後、機能的なワークブーツとして労働者の足元を支え、カルチャーアイコンとしてスキンズやロンドンパンクシーンの足元を飾り、イギリスを象徴する存在となったDr.Martens。サンプルブーツの製造から35年間、世界的なブランドへと発展していくDr.Martensの生産を担い、陰から支え続けたファクトリーの一つがNPS社、SOLOVAIRでした。

そして1970年代後半、日本におけるエアクッションソールの歴史に大きく関わったのは、ロイドフットウエアの前身であるロイドクロージングだったのです。
舞台となったのは、ロイドフットウエアの前身である英国服専門店ロイドクロージング。ショップ内の一角に、グレンソン・トリッカーズ・ホーキンスなどの英国靴をセレクトしたこのショップは、70年代にして、いち早く「英国の伝統と現在」を日本に紹介した場所でした。
ロイドクロージングとエアクッションソールの出会い、それは1970年代後半。先代社長豊田氏が英国での買い付けの際に視察した伝説のブティック「Seditionaries(ex.SEX / World’s End)」。
パンク・ムーブメントの絶頂期、Vivienne Westwood とMalcolm McLarenが経営したショップ。豊田氏はここで飛ぶように売れている靴と出会います。それは装飾が施されたエアクッションソール仕様のSeditionariesオリジナルシューズ。この頃にはエアクッションソールはDr.martensに限らず、数多くのブランドやファクトリーで生産されており、労働靴として英国中のどこでも販売されていて、買い付けの度によく目にしていた靴でした。
いつも目にしていたエアクッションソールシューズが、若者を中心に飛ぶように売れていることを目の当たりにした豊田氏は、その足で取引先のとあるファクトリーに向かいます。そのファクトリーは当時ノーザンプトンに居を構え、ジョッパーブーツなど英国の伝統的シューズを生産していた「Hawkins」。(当時はロイヤルワラントホルダーでありイギリスを代表するシューズブランドでした。)

豊田氏はホーキンスのAstronaut Boot(エアクッションソールシリーズ)を買い付け、ロイドクロージングで販売を開始します。これこそが、エアクッションソール日本初上陸の瞬間でした。
日本初上陸を果たしたエアクッションソールシューズ、品質と履き心地にこそ注目が集まりましたが、初めて目にする特殊なソールと日本における知名度の低さからかセールスがなかなかついてきませんでした。
転機となったのは1981年。前年にロイドフットウエアを立ち上げオリジナルシューズ作りに着手した我々は、これまでの経緯から、ある一つのシリーズをスタートさせます。

「Lloyd’s DR.MARTEN SHOES」(ロイズドクターマーチン)
のちにD Seriesと呼ばれるこのシリーズは雑誌で紹介されるやいなや、何百人もの行列ができるほどの大ヒットとなり、ロイドフットウエアの名前が日本中に知れ渡るきっかけとなりました。さまざまなモデル・バリエーションを生み出し80年代から90年代にかけて、ロイドフットウエアを代表するシリーズとなったのです。

熱狂を生んだこのD Seriesは、90年代に入り諸事情により廃盤に。そしてロイドフットウエアは、もう一つの主軸であった伝統的で重厚なドレスシューズ専門店への道を選んだのです。
ドレスシューズ主体へと舵を切ったロイドフットウエア。皆様がよくご存知の現在のラインナップへと変遷していき、英国靴の素晴らしさを伝えてきました。
時は経ち、2026年現在。
また時代は変わりつつあります。
重厚で堅牢な本格靴・ドレスシューズは、人生の節目には欠かせない守るべき伝統ですが、その一方で、現代を生きる私たちの日常は、より軽やかで自由な「機動力」も求めています。これまでのように、毎日「硬い本格靴」を履きこなすことが、今の暮らしにおいて必ずしも唯一の正解ではないということ。
そこで我々は、今一度自らの歴史を振り返り、英国靴のもう一つの伝統に着目しました。それは、英国の労働現場やサブカルチャーを支え、足元に革命をもたらした「エアクッションソール」という知恵でした。

我々ロイドフットウエアは、このソールを今に継承する英国ブランドとコンタクトを取りました。そのブランドこそ「SOLOVAIR」。かつてライセンス契約に基づき90年代半ばまでDr.Martensの生産を担ったファクトリー。ライセンス生産終了後も変わらぬ生産体制で、あのエアクッションソールを「Soft Suspension Sole」として今に伝えるブランドであり、それを生み出した源流とも言える英国ブランド。

今の時代、少し検索するだけで新しい「物」と出会うことは容易いでしょう。しかし、それらは右にならえで「記号化された物」が大半ではないでしょうか? 本質を捉えた「本物」と出会う機会は本当に少なくなったな、と思う次第です。

単なる懐古主義ではなく、現代の私たちのライフスタイルを支えてくれるSOLOVAIR。
ロイドフットウエアのもう一つの原点とも言えるこの一足。
ドレスとカジュアル、境界線の定義が揺らぐ今の時代だからこそ、足元には偽りのない『本物』を。
ロイドフットウエアとSOLOVAIRの邂逅、それは歴史の必然。
今再び、この時代に相応しい英国靴として、ご提案いたします。